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Akademia pana Kleksa クレクス先生の学校

ポーランド映画 (1983)

ヤン・ブジェフハ(Jan Brzechwa)によって1946年によって書かれた同名児童書(日本語版の題名は『そばかす先生のふしぎな学校』)の映画化。主人公のアダムは原作では12歳だが、映画化にあたり、主演のスワヴェク・ヴロンカ(Sławek Wronka)に合わせて10歳に変えられている。原作は、すべてをアダムの視点から物語る形式になっているが、映画では、アダムの独白が僅かに入るのみ。また、映画は、第1部「マテウシュ王子の冒険」、第2部「美容師フィリップの秘密」に分かれているが、スワヴェクの出番は第2部に入ると急に少なくなる。内容的にも嫌いなので、余程第2部はカットしようかと考えたが、第1部だけで終ると中途半端、第2部の途中で切る案も考慮したが、結局全編を紹介することにした。原作は12章に分かれていて、例えば、映画・第1部の題にもなっている「マテウシュ王子の冒険」は、いきなり2章に出てくる短いお話で、映画のように偏重されていない。それよりは、学校での様々な出来事が8章までの主題となっている。しかし、9章に入り、美容師フィリップが2人の生徒(1人は人形)を連れてくると〔映画では人形のみ〕、話は急に「学園ファンタジー」から逸れ、ダークサイドへと入って行く。フィリップの反乱の動機が全然理解できないのと、自分の学校を目茶目茶にされているのに何も対抗措置を取らないクレクスに違和感と不信感、極論すれば嫌悪感まで抱かされる展開は、原作も映画も同じ。特に、最後の「落ち」には立腹させられる。スワヴェク・ヴロンカが出演していなかったら、絶対に観なかった映画。因みに、原作の邦題を使わなかったのは、①実際は「魔法の色班」なのに「そばかす」では誤解を招く、②日本ではほとんど知られていない児童書なので敢えて間違った題名に縛られたくなかった、③原作は3部作なので題名の統一を優先した、の3点による。

近所の子供たちに除け者にされてきたアダムは、ある日、1羽のムクドリから声をかけられ、クレクス先生の学校に入るよう招待される。さっそくアダムが学校に行ってみると、そこはおとぎ話の世界だった。広大な庭園の中に建つ素晴らしい建物、そして、笑いに満ちた先生と生徒たち。アダムが出会う様々なエピソードを通じて、クレクス先生の学校とはどんな場所なのかが、徐々に明らかにされていく。「魔法使いでも マジシャンでもない」先生なのだが、自由に空を飛び、様々な色を使って料理を作り、「病気」になった家具も治すことができる。そんな生活を送るうち、アダムは、偶然、ムクドリから素性を明かされる。それが、マテウシュ王子の冒険の物語。その後、アダムは飛ぶことを覚え、犬の天国まで行って2年前に死に別れた犬と旧情を交わす。しかし、戻って来たアダムと学校には、不吉な陰が襲う。学校に魔法の品を届ける不思議な美容師フィリップが、奇妙な人形を送り込んだのだ。この人形は、クレクス先生によって命を吹き込まれると、フィリップの指令通りに夢と幸せの学校を破壊し始める。童話の世界の登場人物を集めたパーティはぶち壊しになり、クリスマス・イブにはクレクス先生の秘密の書まで破棄されてしまう。永遠に閉ざされることになった学校からアダムが気付くと、ある部屋にいた。そこにいたのは…

スワヴェク・ヴロンカは、出演時10歳。美少年で有名なBrano HolicekやJanus Dissing Rathkeより2-3歳は若いが、頭のいい子なので同年齢に見える。それは常に口を固く閉じているからで、こうした子役は、他にThomas Hornくらいしか思いつかないが、彼も頭がいい。こうした点は、あまり気付かないが、多くの子役は結構口をポカンと開けている。逆に、
口元が常に真一文字のため、表情が固定されるきらいはあるが、見ていて目の保養になることは確か。スワヴェクは、映画出演は、TVも含めてこれ1本のみ。名門ワルシャワ工科大学を卒業後、2002年に30歳で物理学博士号を取得、現在は国立核物理研究所で働いている。


あらすじ

映画は、アダムの独白から始まる。「僕の名前は アダム・ニェズグートカ。年は、10歳と4ヶ月。これから、クレクス先生の学校について 話すからね」(1枚目の写真)。アダムの立っているのは、2階建ての薄汚れたアパートの外付け廊下(2枚目の写真)。「僕は、すべてに絶望してた。人付き合いが下手で、学校には遅刻してばかり。母さんは、僕を『不器用な子』だと思ってる。子供たちは、誰も僕を遊びに誘わない。ロクなことにならないと 思ってるから。だけど、僕は遊びなんか退屈で、本を読んでる方が好きなんだ。すごい冒険がしたいなって、夢見てた。内心では、とても出来っこないと思ってたけど。だけど、ある時… 後は、自分の目で確かめて」。アダムがアパートの外階段に座っていると、何と、ムクドリが話しかけてきた。「初めまして、アダム。クレクス先生の学校の物語が 君を待ってる。クレクス先生は、君を学校に招待している。そして、大好きな歌で 君を歓迎するだろう」(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、アダムの耳に 明るい歌が聞こえてくる。
  「♪ 逸楽の島コケーニュじゃ、長靴をはいた猫が 杖をぐるぐる
  「♪ 誰もが 意気揚々と手をつなぎ 、変わった言葉で 話してる
  「♪ そこじゃ メンドリが、毎日 金の卵を 産むんだって
  「♪ カシの木は リンゴの実をつけ、みんな 白テンのボンネットを被る
  「♪ お偉いクジラは、眼鏡をかけて郵便を読んでる
  「♪ サーモンとイワシは、トマトとベイクドビーンズと一緒
  「♪ サーカスの白ネズミは、氷の山でスケートしてる
  「♪ そんな場所どこにある? 跡形もなく消えちゃった」。
アダムは小走りに路地を抜けると、オベリスクの上の石の鷲の彫像の目が光る。それを仰ぎ見るアダム(1枚目の写真)。アダムが、反対側にある金色のドアから中に入ると〔アダムが、なぜ庭園の壁の扉から入れたのかは分からない。原作によれば、庭園の扉は「他の童話の世界への入口」のはずなので〕、そこは広大な庭園になっていて、森を貫いたアクスの中をクレクス先生を先頭に少年たちが歌いながらやって来る(2枚目の写真)。いつしかアダムも その中に加わって歩いている(3枚目の写真)。正面にある虹色のガラスの嵌った扉が開くと、正面には瀟洒な3階建ての建物が聳えている(4枚目の写真)。ここが、クレクス先生の学校だ。
  
  
  
  

先生は、アダムと2人きりになると、学校の中を案内してくれる。「物語に加わってくれて とても嬉しいよ、アダム。この学校は、きっと気に入るぞ。新しい友達にいっぱい会えるし、とても楽しい」「1階には、教室と寝室と食堂がある。2階には、キッチンと私の研究室と、他の物語への扉がある。3階には秘密の部屋があり、ムクドリのマテウシュと私だけが入れる。煙突だけが入口だ」(1枚目の写真)。そして、先生は、「正午だ。まずキッチンから紹介しよう。食事の準備を手伝って欲しい」。キッチンに入ると、先生はアダムに食用絵の具の話を始める。「私は、異なった風味を持った食用の絵の具を作れるんだよ。青は酸っぱく、緑はハッカの味。ピンクは甘く、赤は苦く、黄色は塩辛い」(2枚目の写真)。そして、さらに「色を混ぜることで、もっと複雑な香りが得られる。緑と白に、少量の灰色で バニラ味。茶と黄で、チョコレート味。白と銀に、ちょっぴりヒスイを加えると、パイナップル」。先生はパレットを見ながら、生徒たちの昼食の1皿目は、「花のスープ」と決める。「3つの香りを持つ 花のスープだ」と言うと、置いてあった液体を調合し始める。料理ではなく科学実験の雰囲気だ。完成すると、「メイン・ディッシュは、アヒルだ」。取り出したアヒルのローストは1羽分。生徒全員(24人)分にしてはあまりに少ない。「ちょっと、膨らませないとな。それには、拡大器を使うんだ。私は、魔法使いでも マジシャンでもないからな。私は、発明家みたいなもので、物語の紡ぎ手だ」。それを 素直に聞いているアダム(3枚目の写真)。
  
  
  

アダムは、「スープをチュリーン(蓋付き深皿)に入れ、下に降ろしなさい。その間に、私はアヒルを用意する」と頼まれる。「降ろす」というのは、無事通りで、ここには、2階の実験室のようなキッチンと、生徒用の食堂とを結ぶ巨大な給仕用エレベーターがある。アダムは、チュリーン4個と一緒に、それに乗って1階に降りる(1枚目の写真)。1階では、生徒達が皿をテーブルに並べている。「アルフレットⅠ、アンソニー、アンドリューⅡ、アダムⅡ、アンドレイ…」。全員が「A」で始まる名前ばかり、同じ名前には番号が付いている。そこにアダムが現れたので、生徒たちの注目が集まる。「新入生だ」。「何て名前?」。「アダムだよ」。アダムは同名4人目で最多になるので、みんなが笑う。悪気はないのだが、なぜ笑われたのか分からないアダムは不安になる(2枚目の写真)。その顔を見て、生徒の1人が「今日のランチ、 何だい?」と訊く。「アヒル」。すると、生徒2人による2番目の歌と踊りが始まる。とっても奇妙な歌詞だ(3枚目の写真)。
  「♪ 変てこアヒル、保証付き、とってもおかしな鳥なんだ
  
  
  

  「♪ 仲間と一緒に家にいず、遠くまで歩いて行ったとさ
  「♪ 床屋さんでガーガー鳴いて、『チーズを4分の1売っとくれ』
  「♪ お次は隣の 薬屋さん、『ビールを1杯ちょうだいな』
(1枚目の写真、髪に付けているのは「アヒルの首輪」)
  「♪ 洗濯屋さんで頼んだのは、絵葉書に貼る切手を1メートル
  「♪ 家に帰ると仲間は大騒ぎ、飛べないから それしか能がない
  「♪ 変てこアヒルは 雪の中で卵を固ゆで、巻き毛を ちょうネクタイで留め
  「♪ 仲間のアヒルは ブツクサ文句、だってマッチを クシ代わり
  「♪ 一度は 本を食べちゃって、ちんぷんかんぷんになったとさ
  「♪ スパゲッティを山ほど食べて、『キャンディを作ってるのよ』
  「♪ コインを飲み込んだのは、イン(韻)を 合わせるためだって
  「♪ 仲間のアヒルは困り果て、『こんな困り者 どうしよう?』
(2枚目の写真、髪に付けているのは「ちょうネクタイ」)
  「♪ とうとう 買い手が見つかった、『何とかトライ してみましょう』
  「♪ 変なアヒルは串で刺され、熱いオーブンに突っ込まれた
  「♪ ところが 買い手は大慌て、変てこアヒルが うさちゃんに」。
思わず笑顔になるアダム(3枚目の写真)
  「♪ その後の話は聞いてない、とっても変な鳥でした
〔こんなナンセンスな歌詞は初めてだが、訳すのも一苦労〕。
  
  
  

アダムは、エレベーターからチュリーンを取り出して生徒に渡す(1枚目の写真)。「花のスープだ!」と歓声が上がる。アダムは、エレベーターで2階に戻る(2枚目の写真)。すると先生は、「アヒルは、私が持ってサーヴしてこよう」と声をかけ、料理ごと食堂に下りて行く。その間のアダムの独白。「僕は思っていた… これこそ、大冒険の始まりに違いないと」。先生は戻ってくると、アダムに「デザートはどうしようかな」と訊く。アダムはよく考えて、「オムレツとサクランボの チョコレートかけです」と答える(3枚目の写真)。さっそく、また絵の具を混ぜる先生。「私たちの スペシャルだな。きっと、気に入るぞ」。その時、アダムは、「先生は、何を食べるんですか?」と尋ねる。「髪と 色斑4つには、錠剤2個で十分だ」。「色斑」とは、先生や生徒たちの頬に付いている色々な色の小さな丸いシールのことだ。その返事を聞いて思わず笑うアダム。「笑うなかれ。色斑は 記憶力と精神力を増し、風邪に効く」。その時、先生は「色斑」の予備がなくなっていることに気付く。「もう 色斑がないな。フィリプ美容店で 調達してきて欲しい。彼は 毎週木曜に来るが、それまで待っておれん。店はシャーレ通りにある」。
  
  
  

かくして、アダムは1人で町に戻る。独白:「フィリップ美容院は 迷わず見つけられた。中が どうなっているか気になった。美容院なんて、入ったことなかったから」(1枚目の写真)。アダムが店に入って行くと、誰もいない。中には上半身だけのマネキンが並んでいて、カツラが被せてある。アダムは、カツラを1つ取って、自分の頭に被せてみる。その時、助手を呼ぶフィリップの声が聞こえ、ハッとして(2枚目の写真) 慌ててカツラを元に戻す。そこに店主が現れ、「何しとる、いたずら小僧? 私の店は大人専用だ。こそ泥なのか?」(3枚目の写真)。アダムの厳しそうな顔は、店主の白衣のポケットに「手」が入っていてびっくりしたから。実は、店主は、いつまでもクレクス先生の下働きでいるのに嫌気がさし、最新の技術で「生徒になれるような人形」の製作を続けていて、その人形の手がポケットに入っていたのだ〔映画の第2部の中心テーマ〕
  
  
  

店主のぶしつけな態度は、アダムが「クレクス先生が、新しい色班が必要なんです」と答えると急変し「大親友の学校の 生徒さんだったか。君に会えて嬉しいよ」と、とって付けたように にこやかになる(1枚目の写真、矢印は色斑を入れる容器)。そして、アダムの顔をしげしげと見ながら、「君は あまり… あそこの生徒みたいには、見えなかったからな」(服が地味で、顔に色斑を付けていないから)。店主は金庫から色斑を取り出しアダムに渡した後で、アダムの顔をひねくりまわす。「何してるの?」。「君の顔は、まるで…」と言いつつ、首をぐいと動かす(2枚目の写真)。「これで ちゃんと固定された」〔店主の頭には、製作中の人形のことがあったのかも〕。そして、アダムに向かって、「すぐに、びっくりするようなことが起きる」と言って去って行く。そして、奥の実験室に戻ると、設計図と部品を照合し始める(3枚目の写真)。
  
  
  

学校では、アダムの帰りが遅いので、先生が門の所で待っていた。「心配してたぞ、アダム」(1枚目の写真)。アダムは、店主の最後の言葉が不安になったので、先生に「あのね、先生…」と話そうとすると、「明日にしよう。今は、もう寝なさい。いい夢を見ることだ」と断られてしまう。これは先生のミスで、店主の陰謀を初期の段階で阻止する機会が消えてしまった。少しがっかりして1人で玄関を開け中に入るアダム(2枚目の写真)。これがアダムにとって、学校で過す初めての夜になる訳だが、最初の1日にしては、大変な体験をしたことになる。先生は、生徒たちが寝た頃 寝室を訪れ、布団をかけてやったり、脱ぎ散らしたクツを揃えてやったりしている。この大きな学校には、いわゆる使用人は一人もいないのだ。料理を含め、すべてを先生一人がこなしている〔掃除は 生徒たちの役目〕。先生がアダムのベッドに行くと、美容院のフィリップの悪夢でうなされていたので、平和な夢に切り替えてやる。そして、頭をなぜながら「よく お眠り」(3枚目の写真)。それにしても、派手な色の寝具だ。
  
  
  

翌朝、子供たちは、ムクドリのマテウシュが振る鈴の音で起こされる〔原作では、朝5時〕。隣の男の子は、目が覚めたアダムに、「お早う、アダム、一緒に雨の木の下に行こう」と誘う(1枚目の写真)。原作にもあるが、子供たちの寝室の真ん中には、雨を降らす木が生えていて〔原作ではジュース〕、そこで朝のシャワーを浴びるのが慣わしなのだ。男の子が「先導役は?」と他の子に訊くと、「アダムⅢ」との答え。「始めろよ」の声で、子供たちが雨の木の周りを歌いながら歩き始める。
  「♪ 月は 涼みたいから、水面に顔を映す
  「♪ 魚たちが水面から顔を出し、驚いて叫ぶ 『そこにいるのは誰?』
  「♪ 月は 魚たちの尾びれに映え、うろこが 金魚のように光る
  「♪ ああ 友よ、お前を釣ってやる。釣り人が 釣り糸を投げる
(2枚目の写真)
  「♪ 魚は 疑似餌で釣り上げられ、クリーム煮にされ 朝食に
やっぱり、どこか変な歌詞だ。歌が終ると、みんなで雨の木の下でシャワーを浴びる(3・4枚目の写真)。人数が少ないので、寝室ごとに雨の木があるのか〔原作では個人シャワー〕?
  
  
  
  

先生が、2階から、「みんな 起きたかな?」と声をかける〔原作では6時〕。「はい!」と生徒たち。「ズルは いないかな?」。「いません!」。「怠け者は どこにいる?」。「ソファで 怠けてます」。ここからが、階段を使った4番目の歌。
  「♪ 怠惰な怠け者が 怠けてる。怠け者が またズルしてるぞ
  「♪ 『ズルって 何のこと?』『ちゃんと 仕事してるよ』
  「♪ 誰だ? 朝も昼も モリモリ食べてるのは
  「♪ 誰だ? そこで ゴロゴロ休んでるのは
  「♪ 誰だ? 頭や鼻を ポリポリかいてるのは
  「♪ 誰だ? 座って足指をピクピクさせてるのは
  「♪ 誰だ? 大事なもの忘れたのは?
  「♪ ほらな、私は ズルなんかじゃない
ここから、階段上で全員の歌とダンス。
  「♪ 怠惰な怠け者が 怠けてる。怠け者が またズルしてるぞ
  「♪ 『僕、肝油飲んでなかった?』『僕、ヤカン 見張ってなかった』
   『僕、だまされなかった?』『僕、あっかんべ しなかった?』『僕、髪を切らなかった?』

  「♪ これって ズル? そんなのフェアじゃない
やっぱり、どこか変な歌だ〔因みに、着ている服は様々だが、原作では紺色のシャツに白いズボン〕。歌が済むと、先生はみんなの夢を集め、それが済むと全員に朝食前の仕事を課す。食卓の準備や、教室や階段や寝室の掃除などいろいろだ。アダムが頼まれたのは、「アダムは、マッチ売りの少女から、マッチをもらって来なさい」(2枚目の写真)「厚着をして行くんだ。物語の中は 真冬だぞ」。よく理解できないまま、厚着をして2階にあるドアを開けると、そこは真冬の街角だった。驚くアダム(3枚目の写真)。辺りは一面の雪。少し歩くと、一軒の家の前で 薄着の少女が一人ポツンと座っている。この少女に違いない。あまりに可哀想なので思わず涙が出てしまう。そこに、山高帽を被った紳士が現れ、「お早う、坊や。君は 別の物語から 来たんだね? ここで、何してるんだい?」と尋ねる(4枚目の写真)。「クレクス先生から、マッチを貰ってくるよう言われました」。「何だ 先生が寄こしたのか。実にいい方だ。マッチなら すぐあげるよ」。そう言うと、紳士は少女に「1箱もらえるかな」と言ってマッチを受け取り、「これを、クレクス先生に」と差し出し、「泣かなくてもいいよ」と付け加える。「この子は、寒くてひもじい『振り』をしてるだけ。ただのお話だよ」「クレクス先生に よろしく。君は、私が誰か分からんようだね。私はハンス・クリスチャン・アンデルセンだ」。この学校が、あらゆる童話とつながる一種の「結界」であることが分かる一瞬だ。
  
  
  
  

ここから、「授業」の一端が紹介される〔原作では朝7時〕。先生の方針は、「九九表なんかで、君らを悩ませることはせん。文法もなし。習字もせんでいい。学校で 普通教わるようなことは何もやらん」「私は、君らの心を解放し、五感を研ぎ澄ます」というものだから、いずれも奇想天外だ。最初は、「クレクス流表現法」の授業。教室にはカラフルな正四面体のキューブが置いてあるだけ。机もイスもない。生徒が、魔法のペイントを壁に投げると、紫の熊、赤い狐、灰色の猪、緑の猿などの絵に変わり、壁の上を動き回る。CGのない時代の映画なので映像は貧弱だが、発想は豊か。ここでは先生の言葉が歌になっている。一番印象的なのは、猪が壁から出て、教室の中を走り回るところ。
  「♪ 野生の猪はワイルドだ、いつも牙を 尖らせてる
  「♪ もし見かけたら遅れるな、すぐに近くの木に登れ!
生徒たちは、正四面体のキューブを木に見立てて猪から逃れる。といっても、2次元の猪なので恐ろしい感じはしない。最後は、キューブを2段に積んで、猪を閉じ込める(1枚目の写真)。猪は灰色一色の輪郭だけの絵なので分かりにくいが、一応、子供たちの手が触れ、絵の動きと連動している。次は、壊れた家具類の「病院」。「細心の注意を払って。ここは、病気の家具たちの病院だ。動揺させないように、丁寧に扱ってやりなさい」(2枚目の写真)。先生は、そう説明すると、最初に脚が1本折れた机に向かう。手前の脚の先が曲がって先生と握手する。折れた脚には白い包帯が巻いてある。「やあ、今日の具合は どうだい? 熱が下がったようだな。気分は 良くなったかね? 痛みはないか。それじゃあ…」。そして、包帯を取る。「治っとるじゃないか。とても きれいだぞ。1日か2日で、健康そのものだ」。先生が2番目の患者である衣装箪笥の中に入っている間、壁に掛かっている絵に見入るアダム(3枚目の写真)。海を走る帆船の絵だが、アダムが見ていると船が海から浮き上がる〔後で、アダムの空中浮揚のヒントになった〕。
  
  
  

地理の授業は、屋外の草原で。「今から、2つのチームに分かれて、地理の授業だ」(1枚目の写真)「君らは元気そうだから、いい試合になるぞ。キャプテンは、ここに来なさい」。2人は先生と握手を交わし、キャプテン同士 頬にキスする。先生がホイッスルを吹くと、空から大きな地球儀ボールが落ちてくる。2チームによるボールの奪い合いだが(2枚目の写真)、その間に、先生が「ヨーロッパ」と言うと、子供たちが「ロンドン、パリ、マドリッド、ローマ、テムズ…」などと地名を言う。「アジア」。「イラン、ゴビ、オーマン、ガンジス、Ninsei、東京…」〔「Ninsei」とはどこなのか?〕。しかし、競技(それとも授業)の途中、地球儀ボールが学校の壁を超えてしまった。誰も取りに行かない。一度 壁の向こうに消えると、二度と元に戻らないのだ。次いで、先生は生徒たちを小さな池を跨ぐ丸太の上に座らせて、不思議な話を聞かせる。
  「動物たちは、夏がもうぐやって来ると、話し合っていた」
  「モグラはぶつぶつと言った。『わしとしては、夏は荷馬車で来ると思うがな』」
  「カササギは叫んだ。『まさか、そんなのあり得ない。
    だって、去年の5月、あたしが平原にいた時、夏は汽車に乗ってたわよ』」
  「『そんなのはナンセンスだ。俺は知ってるぞ、夏は自転車が好きなんだ』」
  「『違う違う。夏のお好みは二輪馬車さ』」
  「『二輪馬車? そりゃびっくりだ。夏は、陸路でなんて絶対来ない』」
  「その間に、夏は意気揚々と歩いてやって来た」
  「夏の到来を歓迎して 草は踊り、花は煌いた」
(3枚目の写真)〔このナンセンスな講話の訳は、実に難しかった〕。授業は、「鳥やカエルやザリガニや魚の言葉を学ぶことだったが、マテウシュが夕食の合図を鳴らしたので、授業は火曜まで延期となった。
  
  
  

食後、アダムが池の端を歩いていると、怪しげな様子のフィリップを見た気がして跡を追ううち、廃墟の窓にマテウシュがとまっているのを見つけ、中を覗いてみる(1枚目の写真)。すると、マテウシュが「入ってこいよ」と話しかける。アダムが窓から入ると、部屋の床はボタンで埋め尽くされている。「君は、僕の秘密を見つけたね、アダム。だから、僕の話をしてあげよう。そうすれば、なぜ、僕が こんなにも一杯ボタンを集めてるのか 君にも分かるだろう」。そして、アダムが石に座ると(2枚目の写真)、「目を閉じるんだ。その方が、僕の冒険をイメージしやすくなるからね。いいかい、僕は鳥じゃなくて王子だったんだ。かつて、王位経継者のいない偉大な王国があった。だから、僕の誕生を、誰もが待ち望んでいた」(3枚目の写真)。ここで画面は切り替わり、場所不明、時代不明の王宮のシーンに切り替わる。
  
  
  

ここから約30分のマテウシュ(Mateusz、英語名マチュー)王子の物語が始まる。映画の第1部の実質長は約73分なので、その4割もの長さとなる。この映画がまとまりのない印象を与えるのは、この「劇中劇」のあまりの長さに起因する。この中にはアダムは登場しないので、ざっと内容を述べるに留めよう。王家の期待を一心に担いマテウシュは誕生する。元気に育った少年マテウシュは、勉強はそっちのけで乗馬と狩りに熱中した。しかし、この怠慢は家庭教師を怒らせ、王室医を通じて。王子の趣味は、健康や生命にまで危険を及ぼすとの嘘の進言を王にさせ、王子の乗馬と狩猟は禁止された。がっかりした王子が寂しい日を送るうち、我慢できなくなり、遂にある夜、部屋からロープを使って抜け出すと、愛馬に乗って森に狩りに出かけた。しかし、行く手を遮った狼を銃で撃ってしまい、生死を確かめに行った王子は脚を噛まれてしまう。王子はやっとのことで部屋に戻るが、そのまま寝たきりとなった。実は、殺したのは狼の王様で、傷には呪いがかかっていて、出血が止まらなくなったのだ(1枚目の写真)。王子の出血を止めれば王の財宝の半分を分け与えるという王令により大勢の医者が集まったが、誰一人として治せなかった。そこに登場したのが、中国の皇帝の宮廷医パイ・ヒー・ヴォー〔クレクス先生の師でもある〕。パイ・ヒー・ヴォーは、王が申し出た、①部屋いっぱいの宝石、②像の建立、③宰相への登用のすべてを断り、治療に成功したら、貧しい人々を饗宴に招いて欲しいとだけ希望する。そして、王子の傷の上に絹の布をかけて祈ると、傷はたちまち消えてなくなった。治療を終えたパイ・ヒー・ヴォーは、王子と2人だけになることを求める。そして、王子に、殺したのは狼ではなく、狼の王様だったこと、狼たちは決して王子を許さないから、非常に危険であると告げる。さらに、皇帝から授かった魔法の縁なし帽を渡し、「命が危険にさらされた時、この帽子を被れば、好きな動物に変身できます。危険が去ったら、このボタンを押せば、元の姿に戻れます」と説明する(2枚目の写真、矢印の先がボタン)〔ボタンと言っても、押しボタンではなく、服のボタン〕。その後、王国は狼人間の軍団に襲われ、王子の部屋まで敵が入って来る。王子は魔法の縁なし帽を探したが、なぜかボタンが取れていた。殺されそうになり、「鳥になりたい」と被った結果、飛んで逃げることができたが、ボタンがないので元の姿に戻ることができない。仕方なく、山の中で木にとまっていた時 生け捕りにされ、サラマンカの市場で売られることに(3枚目の写真)。そこに、たまたま通りかかったのが、当時サラマンカ大学〔スペイン最古の大学〕で教えていたクレクス先生。以来、王子は先生に仕える身となった。その話に感動したアダムは、「必ず魔法のボタンを捜してあげるからね」と慰める。ここで疑問。王国のあったのは、中央ヨーロッパの山岳地帯だったのに、鳥が売られていった先がスペイン西部のサラマンカというのは突飛すぎる〔原作でも、そうなのだが…〕。さらに、「サラマンカ」のシーンで映っているモスクや市場の形はスペインではあり得ず〔8~11世紀の間イスラムの支配下にあったことは確かだが、モスクは残っていない〕、例えば、発音の似ている「サマルカンド」のそれに近い。
  
  
  

第1部の最後。余暇の時間、生徒たちが庭で様々なことをして遊んでいる。ビーチボールを投げて遊んでいる子も。アダムは、フィリップの異様な行動のことが、まだ先生に話せていないので、友達に誘われたのを断って階段に座り、何とか先生が現れないかと待っている。独白:「クレクス先生を待っている間に、僕は考えた。先生みたいに自由に空を飛べたら どんなに素晴らしいだろうかって。ちょうど、あのビーチボールのように(1枚目の写真)。すると突然、僕は目まいがするような気分に襲われ、気が付くと 体はどんどん宙に上っていった(2枚目の写真)。新しい冒険だ!」。アダムは、手をバタバタさせて、下にいる生徒たちに喜びを表す(3枚目の写真)。庭園では、子供たちが歓声を上げて手を振っている(4枚目の写真)。映画は、最後に、フィリップの実験室で人形の組み立てが進んでいることを紹介し、第2部へと移行する。
  
  
  
  

第2部の最初は、アダムの飛行シーン。両手に沿って両脇に画像合成の黒い線が太く見えていて 可哀想なので画像処理で消した(1枚目の写真)。1983年といえば、スター・ウォーズの3作目が作られた年なので、もう少し丁寧に作ってもバチは当たらないのだが… アダムの独白:「数時間飛んだ後、僕はミニチュアの町の入口に着地した」(2枚目の写真)「僕は、入ってみることにした」。ここは、犬の天国。だから、城門の脇にぶら下がったノッカーは犬の好きな骨だ。ノックに答えて出て来た黒い雄犬は、無愛想に英語で「How do you do.」(3枚目の写真)。次が、黄色い牝犬で「チャオ、スージーよ」。最後に、「Open, Tom!」と叫んで青い雄犬が飛び出てくる。それは、アダムが2年前に亡くした犬レックスだった。嬉しくて犬を抱きしめるアダム。何度も書くが、本物の犬ではない。縫いぐるみの犬だ。
  
  
  

「ここは、犬の天国なんだ。みんなで幸せに暮らしてる。僕の友達に会ってくれよ」。レックスが最初に紹介したのが、最初に顔を見せたブルドッグのトム。英国の宮廷に仕えていたというから、英語を話したのだ。次にしゃしゃり出て来たのがおしゃべりペキニーズのグル・グル。人間に対する文句を並べ立て、レックスに追い払われる。そして、黄色のプードルのスージー。この世界のスターだ。アダムの顔もほころぶ(1枚目の写真)。スージーの歌が終ると、レックスが町の中を案内してくれる。最初が、白牙通り。これは、ジャック・ロンドンの小説に因んだ命名だろう。そこにはドック・レースの常勝犬、プードルのコーラもいる。さらに進むと、左はサラミ園、右はレバー・パテ園(2枚目の写真)、正面にはドリトル先生のチョコレート像。どれだけ食べても毎日新しくなるという便利なもの。アダムも折り取って舐めてみる(3枚面の写真)。しかい、いつも四つん這いになっているのは大変だ。遊園地のあと、ケーキの城にも案内されるが… 「レックスと過すのは楽しかった、しかし、すぐに飽きてきた。特にお菓子の山には うんざりした。僕はスープが嫌いだったけど、今なら 皿一杯でも飲めた。学校が懐かしかった」。その時、マテウシュが飛んで来て、1枚の紙を渡す(4枚目の写真)。「その紙に飛び方が書いてあるから、学校に真っ直ぐ戻るんだ。みんな寂しがってるぞ」〔原作では、12日が経過したことになっている〕。
  
  
  
  

アダムは、学校へと直行する。そして、生徒たちと歓談した後、クレクス先生に会いに行った。先生は、「大変良くやったな、アダム。ご褒美に 金の色斑をあげよう」と言うと、アダムの左の頬に色斑を貼り付ける(1枚目の写真)。そして、「ちゃんと付けて、絶対に剥がさぬこと。一番ランクの高い色斑だよ」と説明し、「嬉しいかい?」と訊く。そうでもなさそうなアダムに気付き、「どうかしたのかね?」と尋ねる。アダムは、テーブルに座ると、「僕がみんなに起きたことを話すと、でたらめだって言われたんです」。「なぜ、そんなこと言われたと思う?」。「羨ましかったのでは? フィリップが 先生の学校を羨ましがってるみたいに」。うなずく先生(2枚目の写真)。「(フィリップは)僕たちが幸せなのが 腹立たしいんです」(3枚目の写真)。「君は、ここに来た時、可愛くて行儀のいい子だった。今では、気が利いて、思慮深くなったな。ご両親も喜ばれるぞ」「君がマテウシュのボタンを捜すことにしたのは知っておる。それは 君が自分で決めたことだ。私の秘密の一つを知りたいのだろ?」。「学校の反対側の窓って何ですか?」。「遥かな彼方を見る窓だ」。アダムが窓に掛かったカーテンを開けると、そこには大海原が広がっていた。「この窓を通して未来が見える。カーテンはいつも閉めてある。行く手にあるのが良い事とは限らんからな。あるがままに楽しんだ方が、いいとは思わんか?」。独白:「僕は、この偉大なクレクス先生といられて幸せだった」。フィリップの悪巧みなど、誰一人疑っていなかった。
  
  
  

美容院の実験室では、フィリップが遂にプロトタイプを完成させていた(1枚目の写真)。最新の技術を用いた遠隔操縦できる人形で、「従順で、出来心とか夢など一切持たず、規律を守るコンピュータ端末」のような存在だ。ただ、重大な問題が残っている。どうやって動かすかだ。そこは単純で、クレクスの魔法に任せるという点が童話らしい。一旦、生命が与えられたら、後は、学校中にこっそり設置したカメラでモニターしながら、思い通りに行動させることができる。学校にとって重大な脅威だ。なにせ、このフィリップは、この映画を通じて、唯一かつ強大な悪役なのだから。学校では、庭園で生徒たちがボール投げで遊んでいると、そこに先生がアダムを連れてやって来る。アダムは、すっかり先生のお気に入りになっている。先生がバイオリンで前奏し(2枚目の写真)、アダムが歌い始める。この映画にしては、すごくまともな内容だ。
  「♪ 僕は特別さ、だって知ってるもん。僕の犬との話し方を
  「♪ 読んで学んだんだ、賢いスパニエルが書いた本を
  「♪ 『ジョー、来い』 と呼ぶと、座って 耳を立てる
  「♪ 『ジョー、跳ねろ』 と叫ぶと、止めるまで 跳び回る
(3枚目の写真)
  「♪ 『ジョー、寝ろ』 と囁くと、僕と一緒に眠るんだ
  「♪ あごを掻いてやると、歯が 悪戯っぽく光らせる
  「♪ もちろん 蝿一匹殺せない、時には 真似してみせるけど
  「♪ ジョーは 靴を噛みたがる、どんな犬でもするように
  「♪ 僕が歌い始めると、いつも寝ちゃうんだ
  「♪ 起きると ごろりと回転し、散歩したいって催促する
  「♪ 僕たちは 仲良く出かける。吠えるのはジョーだけ
  「♪ ジョーは ご機嫌に大はしゃぎ。僕たちは大満足さ
アダムは、「ジョーと話すことができるようになって、最高に幸せです」と一礼。生徒たちからは拍手喝采。実際の歌詞は、きれいに韻を踏んでいるが、日本語ではとても無理なので諦めた。
  
  
  

歌が終ると、先生は、みんなにペアで宝探しをするよう提案する。一番いいものを見つけてきたペアには賞品付きだ。アダムの一番の友達が声をかけてくる。「君が いない間に、木の幹に大きな「うろ」を見つけたんだ。だけど1人じゃ怖くて入れない。一緒に行くかい?」。こうして2人は森の中へと入っていく。大きな木の前に着くと、友達が「これさ」と言って、仰ぎ見る。うろは結構高い所に開いていた。「悪くないだろ?」。幹に耳を寄せた友達が「聞いてみろよ」と言う。アダムが耳を近づけると、木の中から音楽が聞こえる。友達が、用意して来た結び目だけの縄梯子を うろに向かって投げる。うまく引っかかり、先に友達が登る。「早く登って来いよ」と言われ、アダムも必死で縄をつかんで登る(1枚目の写真)。2人がうろの中に入ると、女性の歌声に導かれるように広い洞窟の中へと転送された。歌は「悲しき王女」が歌っている〔歌詞は省略〕。歌い終わると、王女は「あなた達、クレクスさんの学校から来たのね。ここは『悲しき王女』の物語の中よ。美しい物語だけど終わりはないの。終らせてくる人を ずっと待っているのだけれど…」(2枚目の写真)〔百年も待っている〕。「何でも望みを叶えてあげる」という王女の気前の良い申し出に応え、まず友達が。「どんなドアも開けられる鍵」と「好きな場所に行ける笛」を希望し、渡してもらえる。アダムは、マテウシュのために「パイ・ヒー・ヴォーの魔法のボタン」をお願いするが(3枚目の写真)、こちらに対しては、「学校で見つかるでしょう」という曖昧な返事しかもらえなかった。友達がもらった笛を吹くと、2人は無事学校の庭に戻ることができた〔友達の機転がなかったら、物語の中に閉じ込められていたところだった〕。
  
  
  

2人が到着した瞬間、フイリップが、学校の玄関で中に向かって怒鳴っている。「もう、やめた! 他の美容師を見つけるんだな! あんたと生徒どもの髪なんか二度と刈ってやらんぞ! 約束は十分果たしてやった! 彼は、今週中に連れてくるからな! 学校も、ピーチクパーチクどもじゃなく、彼みたいな生徒を受け入れるべきなんだ! さらばだ、クレクスさん!」。そして、門を出ながら、「只の色班は、もう終わりだ」と捨て台詞。映画では、この後、「アダムの夢」と題するアニメが7分にわたって続くが割愛する。数日後、雨の夜、アダムと友達が食卓でリンゴを並べている。勘のいい友達が、「この前、悲しき王女が言ったこと、ずっと考えてたんだ。今夜、何か大変なことが起きるかもな」。びっくりして友達を見るアダム(1枚目の写真)。その時、正面扉のチャイムが鳴る(2枚目の写真)。「訪問客だ」。2人は、土砂降りの雨の中、傘をさして門まで走って行く。門を開けると、そこには1人の少年を連れたフィリップがいた(3枚目の写真)。「これは、新入生のアドルフだ。優等生になるぞ」。アドルフの様子は少し変だ。平らな道は何とか歩行できるが、階段がうまく上がれない。建物に入ると、フィリップは「疲れとるから」と言って、アドルフを抱きかかえて寝室まで入り、空いたベッドに横たえる。服は着せたままだ。脱がせようとしても、起こしたくないからと言って拒否する。脱げば人形だとバレるからだ。不安になったアダムは、先生に知らせようとするが、小人化して就寝中の先生から、「いい夢を見てるから起こすな」と叱られてしまう。
  
  
  

朝、アダムが起きると(1枚目の写真)、「新入り」のベッドの周りで3人が話し合っている。「昨夜来たのかな?」。「誰だろう?」。「見ろよ、服を着たままだ」。触ってみて、「人形だ!」。そこに先生が現れる。生徒たちもどんどん集まって来る。先生は、「君らは正しい、アドルフは人形だ。こうなることを恐れていた。しかし もう遅い。この人形が持ち込まれたのは一種の策略だ。いっぱい面倒を起こすだろう」と困惑したように告げる(2枚目の写真)。それにもかかわらず、先生は「この人形に、感じることと、考えることと、話すことを教えないとな」と言うと、人形を2階に運ばせ、アダムには手伝いとして残るよう求める。先生は師のパイ・ヒー・ヴォーからもらった秘伝の軟膏を取り出し、「静脈と動脈が現れるまでルドルフの手を擦るんだ」と言ってアダムに渡す(3枚目の写真)。
  
  
  

先生自身は、心臓を見てみようと言い、服をまくると、胸とお腹の真ん中に大きな赤い円盤が付いている。ロックを外して蓋を引き出すと、中にはマイクロプロセッサ、トランジスター、ダイオードがぎっしり詰まっている。驚いたアダムが「危険なんですか?」と訊くと、先生は「技術は 使い方次第で良くも悪くもなる。何とかこの人形が、感じたり、見たり、聞いたりできるようにしなければ」と言ってアダムに微笑む。そして、胸の中からパイプを取り出すと、そこから生命の息吹を送り込む。如何にも人形らしかった顔や手は、次第に人間らしくなっていく(1枚目の写真)。フィリップは、実験室でモニターを見ながら、活性化までのカウントダウンをしている。数字が「0」になった時、先生の方も胸の装置を元に戻し、アダムに「何とかやり遂げたな」と話しかける。アダムはアドルフをじっと見つめる(2枚目の写真)。先生がボタンをはめ終わると、アドルフは、「僕・どこに・いる?」と一語一語発音する。アダムが「クレクス先生の学校だよ」と教えると、「僕・息・できるか?」。先生:「もちろん」。アドルフは起き上がると、「杖になるもの・寄こせ」と言う。先生が1本の長い棒を渡すと、アドルフはそれを手にしてベッドから降り、歩き始める。ドアを開けると、そこには生徒たち全員が集まっていた。先生が、「君たちの新しい仲間だ」の言葉に、歓声をあげる生徒たち。しかし、アドルフはにこりともせず、生徒たちをバカにするように、「これはサーカスか? バカ騒ぎするな!」と冷たく言い放つと、階段を1段ずつ慎重に降りて行く(3枚目の写真)。そして、玄関から庭に出ると、「これからモ森を見に行く。お前たちの宝物があるんだろ? みんな処分してやる」と威張ったように立ち去る。実に不愉快な存在だ。
  
  
  

その日の夜は、学校にとって一大イベントの日。学校とつながりのあるすべての童話の主人公たちが一同に会するのだ。生徒たちは、庭の掃除、会場の設営に一生懸命に働いてる〔もちろん、ルドルフは森に消えたきり〕。お客様が馬車や徒歩で次々と集まってくる。主賓は「おもちゃの国の女王」。生徒たちは、全員白のスーツを着て、玄関でお出迎え(1枚目の写真)。ここの歌もアダムと関係ないのでカット。だいたい、第2部はアダムの出番が少な過ぎる。集まったお客たちは、玄関から招じ入れられ(2枚目の写真)、神秘的にセッテイングされた教室に集合する(3枚目の写真)。そこでは、生徒たちが手に料理の皿を手にして、客人たちをもてなしている。
  
  
  

この楽しい宴席の場に突然乱入したのが、姿をくらましていたアドルフ。閉まっていた扉を踏み破り、「このザマな何だ、クレクス! 僕 抜きでパーティか? だから、僕を森に行かせたのか?〔勝手に出かけた〕」と叫ぶ(1枚目の写真)。そして、「僕がキレる前に、とっとと出て行け!」と言いながら、長い棒を使ってテーブルの上のケーキをなぎ払う〔とっくにキレている〕。主賓の「おもちゃの国の女王」と周りの客に向かい、「とっとと出て行け。失せろ、バカ鳥め! 小びとも消えろ、さもないと襲いかかるぞ!」と威嚇する(2枚目の写真)。女王は、激怒して立ち上がり、「私は、おもちゃの国の女王です。直ちに止めなさい!」と命じるが、アドルフは、「悪かったね、お姫さん。僕は お仲間じゃないんだ」。そして、今度はクレクス先生に向かって、「命をありがとよ、この老いぼれ。今じゃ、後悔してるだろ」。さらに、反対側に行き、「出てけ、ピノキオ、鼻に一発ぶちかまそうか! 雪の女王もどかないと、融かしてやるぞ!」(3枚目の写真)。客が全員逃げ出した後で、アドルフは、「これだけじゃない、この学校も終わりだ! こんな物語を始めたのが間違いだったな! 残ったのは、ただのダラクタだ! ガ・ラ・ク・タ!」。そして出て行く。心配して集まった生徒たちに向かい、先生は、「残念だ、諸君、この物語を最後まで語ることができなかった」と言った後(4枚目の写真)、「冬が来る前には、まだ秋がある」という不思議な言葉を残して、飛び去ってしまう。クレクスは全能のはずなのに、フィリップの陰謀を見抜けず、軽はずみにアドルフに生命を与え、しかも、アドルフの暴挙を静観するだけで、何一つ制止行動を取らなかったことは極めて不可解だ〔原作でも、クレクスが完全な放心状態になったと書かれているだけで、なぜそうした態度を取るかについては一切書かれていない〕。
  
  
  
  

独白:「10月、11月と雨が続いた。屋外で遊ぶことは もうなかった。クレクス先生は、黙ったまま沈み込んでいた。先生はキッチンを無視し、僕たちの食事を忘れた。色班を無視し、錠剤を飲まなかった。結果として、髪の毛は薄く灰色になった。そして、最後の冬、最後のクリスマスが来た。クリスマス・イブの夕食で、クレクス先生は 昔の姿に戻ったように見えた」。先生を囲むように並べられたテーブルの中央に立つと、クレクスは最後のスピーチを始めた(1枚目の写真。アダムは先生の隣に座っている)。「諸君。私たちの物語はここで終る。君たちと別れることは悲しい。私たちは この1年 一緒に過してきた。とても楽しかったが、永遠に続くものなどない」。「僕たち どうなるの?」。「明日、家に帰りなさい。真夜中に門を開けるから、鍵は池に捨てておくように」。「また、会えるんですか?」。「もしかたら、別の物語で」。ここで、落ち込んだ気分を盛り上げるため、全員にプレゼントが渡される。最初にプレゼントをもらったのはアダム(2枚目の写真)。しかし、その時、2階でバタバタ音がしている。慌てて調べに行く先生。入れ替わりに、アドルフが先生の秘密の箱を持って食堂に入って来る。「これが、あの老いぼれの秘密だ」「キャロルもプレゼントもなし。涙と歯ぎしりだけさ」と言うと、箱を開け、漢字で書かれた巻物を取り出し、「どうだ、お前たちには読めないだろ。だから、こんなの破り捨ててやる」と次々と破っていく(3枚目の写真)。モニターで、それを満足そうに眺めるフィリップ。それにしても分からないのは、なぜ、アドルフが許されて まだ学校にいられたかということ。とっくに追放されていて、しかるべきだ〔原作にも、何も書かれていない。ただ、クレクス先生が毎日確実に小さくなっていき、それが先生を神経質にさせ、それが意欲も元気も喪失させ、それとは逆に人形は横暴で自由に学校内を闊歩するようになったとは記されている。しかし、なぜ?〕。
  
  
  

アダムは、アドルフの暴挙をただ見つめている(1枚目の写真)。他の生徒も同じだ。そこに入って来たクレクスは、アドルフの首根っこをぐいと握ると(2枚目の写真)、「お前は、私の秘密を破壊した。よって、罰せられる」と宣告し、服の中に手を入れてスイッチを切る。そして人形に戻ったアドルフを抱えて捨てに行く〔原作では、人形を解体する〕。一方、フィリップの実験室では緊急警報が鳴り、寝ていたフィリップが慌てて映像を巻き戻すと、アドルフの機能が停止された場面が映る(3枚目の写真)。
  
  
  

学校では、生徒たち全員にプレゼントが配布され、クレクスが「私の物語が こんな形で終ってしまい残念だ。この巻物には、パイ・ヒー・ヴォー師から頂いた知識が詰まっておった。これからは、色を使った調理もできんし、空を飛んだり、家具を治したりもできん。だが、幸い、君たちには いくばくかの知識を与えることはできた。プレゼントを開く前に、みんなでキャロルを歌おう」。そこに、フィリップが入ってくる(1枚目の写真)。フィリップが20年かけて人形を作った理由は、すべての童話に入り込んで、それを内部から破壊すること。その苦労の結晶を失ったことで、フィリップは復讐に来たのだ〔と言われても、説得力はゼロだが…〕。フィリップは、「この場所を 消し去ってやる」と言って、銃のようなものを撃ち始める(2枚目の写真)。しかし、それで誰かが傷付くわけではない〔理解を超える→原作では、大きなカミソリを取り出して、クリスマス・ツリーを切り刻み真っ暗にする〕。いち早く逃げ出し、建物を見つめるアダム(3枚目の写真)。その後、クレクスは、建物の外に出て来たフィリップを待ち構えていて、ボタンに代えてしまう〔もっと早く代えていればいいのに、と思う〕。そして、そのボタンを、「これが君の捜していたボタンだよ」とアダムに渡してやる(4枚目の写真)。この部分は、恐らく原作の方が優れている。学校の建物、広大な庭園のすべてが縮んでいくのだ〕。アダムがボタンを握って目を閉じると、一瞬、『悲しみの王女』の「学校で見つかるでしょう」という言葉が頭を過ぎる…
  
  
  
  

再びアダムが目を開くと、そこは暖炉の火が燃える暖かい部屋の中だった(1枚目の写真)〔原作では、この部屋の中に まだクレクス先生はいた。しかし、大きさは小指大からプラム、そして、ヘーゼルナッツにまで縮まり、最後にボタンだけが残る〕。イスの背にとまったマテウシュが、「ボタンをくれよ」と声をかける。さっそくアダムはボタンを嘴に咥えさせてやる(2・3枚目の写真)。すると、マテウシュは中年の男性に変わる。「あなたはマテウシュ王子なの? それとも、みんな夢なの?」。「私は王子じゃないよ、アダム。私はこの物語の語り部だ。狼の王を作り上げたのは私だ」。「王子やパイ・ヒー・ヴォーも? 童話なら、いつだって善は勝つのに」。「ということは、これは童話ではないと思ってるのかね?」。「あなたは、誰なんです?」。「私が『クレクス先生の学校』を書いたんだ。子供たちを楽しませるためにね」。そう言って、本を見せる(4枚目の写真)。こんな「落ち」は、児童書には絶対に相応しくないと声を大にして言いたい。
  
  
  
  

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